「それは願ったり叶ったりですが、そもそも私は公爵様の嫌いな香りというのを知らないので……」

 色んな香りをつけて試したとしても、そもそも私は彼に会いたくも、関わり合いたくもないのだから、試すのはリスクが高すぎる。
 一度会っただけの今日で、これだ。考えただけでゾッとする。
 さっきあった出来事を思い返して、私の肩がふるえた。
 するとレオンはすっと立ち上がり、私の背後から自身が着ていた上着を肩にかけてくれた。

「嫌な事を思い出させてしまったらしい。謝罪しよう」

 ……なんて優雅なイケメンだ。さっきとは違った意味で体が震える。悶絶ものだ。

「あの、ふと思ったのですが……その香水を今日はつけていらっしゃらないのですね?」

 さっき抱きかかえてもらった時、レオンからは甘いのに、清涼感を感じさせる香りがした。
 それは私が作った香水の香りとは違ってたんだけど……香水瓶は持ち歩いてるのに、中身は使わないの?

「ああ、普段から香水をつける習慣はなくてね。この香りを楽しむときは、ハンカチに振りかけたり、ルームフレグランスとして使用したりしている」
「えっ、ですが……今は別の香水をつけていらっしゃいますよね?」
「いや、つけていないが……?」

 いや、だって? さっきの香りはなんだったの?