これがマンガで私が読者だったなら、大好物な物語なのに。すれ違う二人にヤキモキしながらああでもないこーでもないと届くはずもないマンガ目掛けて叫びつつ、胸がおどっている自分を自覚して課金して、邪魔する拗らせキャラに奥歯ギリギリさせてるはず。

 ーーそう、それは全て第三者だから楽しめることであり、当事者になっては決していけない。
 何せ全く楽しくないから。
 毎朝髪をセットしてくれる侍女に頭を触られるたび、円形脱毛してないかってドキドキしてしまう。
 それくらいにはストレスを感じているくらいだ。

「リーチェ、こちらが錬金部屋ですよ」

 店に入ったのに、全然店内に目も向けず呆けてしまっていた。そのせいでレオンがすぐそばに立っていることにも気づいていなかった。
 白を基調とし、大きな窓から差し込む光。ところどころに観葉植物を置かれて、自然を取り入れつつシンプルで清潔感に溢れた店内の奥を、レオンは指差していた。

「ぼうっとしているようですが、どうかしましたか?」

 レオンが私の手を引き、そこにキスをする。視線は私に向けて挑むように。
 その視線の意味はなんなのか、と考えるとの同時に、私はマリーゴールドがどこにいるのかと目を泳がせる。彼女はどうやら店内に置かれた香水やアロマのサンプルに目を向けているようだ。
 なんとなくホッとした自分と、だからこそこういった行動をとるのだろうかと推察してしまう自分の思考にも反吐が出そうになる。
 そもそも手の甲にキスはあいさつだ。まぁ今は、あいさつするタイミングではなかったのだけど。