「……もしかすると風邪ではないでしょうか? 昨日もパーティで色々ありましたし、侯爵様はお疲れなのかもしれませんね」

 悪意を持って突っ込んだわけではない故に、フォローもしっかり入れてくれる大天使マリーゴールド様。私を挟んだ状態で、マリーゴールドは心配そうにレオンを見つめている。

「いや、乾燥でなければ一時的なものだろう」

 わっ、びっくりした。久しぶりに敬語を使わないレオンの言葉を聞いた気がする。
 そっか、マリーゴールドには敬語を使わないんだ。私と出会ったばかりの時もそうだったもんね。
 だったら、レオンはマリーゴールドにも敬語を使わないようにって言うのかな? 私に言った時みたいに。
 そして、名前や愛称で呼び合うようにーーそこまで想像すると、私の胃の奥にドスンと重たい何かが落ちた気がした。

「私、先に中に入りますね。ついてくるのなら好きにしてください」

 緩んだ隙をみて私は二人の手を払い、店の中へと足を踏み出した。

 地獄の三丁目って、今まさに私がいる場所のことなのかしら。
 好きになってはいけない人を好きになった地点で、私は地獄への切符を受け取ってしまった。
 でもなにが一番地獄かって、表向きとして付き合ってるのは私なのに、相手の心は私にない。それなのにこのふざけたお芝居を続けようとする男と、そんな男を好いている上、実は両思いというのに、私がいることで拗れて両片思いというシチュ。