「……お前、俺のことを愚弄するのか?」

 当たり前でしょ。
 パッパラパーな脳みそを持ち、甘やかされて育ったボンボンの公爵なんて、馬鹿にされて当然よ。
 そもそも馬鹿野郎に馬鹿野郎と言って、なにが悪い。
 馬鹿にされたくないのなら、面構え以外も育てることね。

 ……なんて、声を高らかに言ってやりたい。
 だけど相手は曲がりなりにも地位のある貴族。ここはグッとガマンして……。

「愚弄だなんて、ただの例え話です。世の中にはなにも考えず、ただ力で押せば女性は喜ぶだなんて思っている殿方がいると聞きまして。そういう輩はいつも言うのです――俺のことではない、と」

 そう、お前のことだよキール。
 私はキールに掴まれている腕を引っぱった。不意を突かれたせいか、よろめくような形で私に身を寄せたキールに、私はひと言こう言った。

「ですがコーデリア公爵の姓を持つ方は、そのようなことはございませんよね?」

 私は空いた片手でドレスの裾を引き上げ、ここぞとばかりに満面の笑みを向けた。

「……お前、俺を怒らせたいようだな」
「怒らせる?」

 はて? と私は小首をかしげて見せる。
 ギリリッと歯ぎしりする音が聞こえてきそうなほど表情を歪めたキールに向かって、今度は上品に見えるような笑みを浮かべた。

「いいえ」

 口元は弧を描きながら、目には怒りの色をのせる。
 張れるだけ胸を張り、弱々しさを感じさせないように下腹部に力を加え、こう言い放った。

「あなたを怒らせたいのではなく私が怒ってるという話をしているのです。いい加減この手を放していただけますか、コーデリア公爵様」

 キールの目が再びカッと見開かれ、その瞬間開いた左手を大きく振りかぶった。