「コホン」

 気を取り直すため一度咳払いをしたのち、再び私は口を開いた。

「ともかくそういう経緯があり、私はレオン様の好意を受けて契約に至ったのです」
「その好意とは、愛情を含んだもの……という解釈で間違い無いでしょうか?」

 マリーゴールドはレオンの表情を読み取ろうと、彼の顔を遠慮がちに覗く。そんな視線から逃れるかのように、レオンは顔を逸らした。
 そりゃ顔を逸らしたくもなるわよね。運命とも感じる相手が現れた中で、愛情を持って契約してるんでしょ? なんて、勘違いされたくない本人から言われてしまったら、流石のレオンも平静な顔を保てないでしょうよ。

「ここはレオン様と私が共同で経営するお店です。ですから好意というのはそういった類のもので、マリー様の思っていらっしゃるようなものではありません」
「そう、なのですか?」

 なにやら疑問が残ったようで、彼女は首を傾げている。相変わらず視線をレオンに向けながら。
 クリッとしたドールアイズを持つ、マリーゴールドの視線を受けているにも関わらず、レオンは気付かないとでも言いたげに彼女とは目を合わせない。
 そんなレオンに代わって、私が決めの一言。

「そうです。それ以外に理由は存在しませんので」

 心臓が見えない紐で縛り付けられたような苦しさをおくびにも出さず、私はハッキリとそう言ってのけた。
 私の言葉を聞いた瞬間、マリーゴールドの表情には明らかな喜びの色が見えた。