マリーゴールドというレオンの番の相手がいる前で口説かれようものなら、斬首塔に上るよりも、鉄の処女の腹の中に入れられる事よりも、苦痛で仕方がない。
 何せレオンは義務感と自分が言い出した言葉の責任を取るための責務感から口説くだけで、内心では本音と戦っている事を知っているのだから。
 そして他の令嬢を口説くレオンの姿を見せるのも、レオンが好きで慕っているマリーゴールドにとっては苦痛だ。

 ……驚くほどに、誰も幸せになれない状況ね。

「ありがとうございます。レオン様の優しさは存分に承知しております」

 私はドレスを指でつまみ、足をクロスさせてお辞儀をしてみせる。

「ですが、私達は《《仮の婚約者》》。お互いの利益の上で成り立った関係ですので、レオン様がそこまで時間を割く必要も、私の面倒を見る必要もありません」

 私はあえてマリーゴールドに向けて言うように、説明を付け足した。

「リーチェ、私はーー」

 私の言葉を否定するかのように、レオンが割り込んで来るだろうことも想定していた私は、彼の言葉に被せるようにしてさらに言葉を紡ぐ。