「ところで、お二人はどうしてここへ?」

 店はまだオープンしていない。お店で売るほどの香水を用意していないからだ。

「私は店の様子と、奥にいる錬金術師の様子を見に来たんです」

 店の奥にあるスタッフ用の扉を開けると、そこは調合室になっている。私が毎日ここに来て調合する必要はないけれど、精油を抽出するための錬金術師がここで作業をすることになっている。

「私はちょうど買い物でこの辺りを物色していたところ、この店が気になって覗いていたところ、中に侯爵様がいらっしゃったので、昨夜のお礼も兼ねてご挨拶をしておりました」
「そうでしたか」

 本当に? とツッコみたい気持ちはあるが、それ以上言葉を繋ぐ代わりに私は笑顔で口元を引き結んだ。

「そういうリーチェこそ、店に顔を出すと一言教えてくださったのなら、私が迎えに行って差し上げたのに」
「そんな、お忙しいレオン様のお時間を割くわけにはいきませんので」
「リーチェのためであれば、いくら時間を割いても構いませんよ」

 ーーカチリ。と、レオンのスイッチが入った音が、聞こえた気がした。
 リーチェを口説き落とす、スイッチ。さすがは男主人公。一度決めたことはどんな拷問を受けようとも変えない。
 むしろこの場でいえば、拷問を受けているのは私の方だけど。