「プレイなどとお戯れを。私は心底毛嫌いしておりました」

 淑女らしく、口元をほんのり引き上げる程度の笑みを浮かべる。
 キールの瞳は目いっぱい開かれた後、赤い瞳は瞳孔を小さくして揺れている。
 あら、その驚いた顔は美しいじゃない。なんて、内心でほくそ笑んでしまった。

 微動だにしない端正な顔はまるで絵画のよう。
 けれどその絵は壮麗な絵とは程遠く、ムンクでもさけび出しそうな顔をしている。
 きっと自分に逆らう令嬢なんて、この世にいないとでも思っていたのだろう。
 面と向かって敵意を露わにするような令嬢も、きっとそうはいないはず。
 だから私が、あなたのそういう類の令嬢になってあげようじゃないの。

「女性は押せば倒れると思っているどこぞの阿呆がいるようです。女性だって押されれば、誰もが倒れるわけではありません。踏み留まり、反発だっていたします」

 キールの顔から笑顔がどんどん消えていく。
 唯一残していた口元の笑みですら、今はもう見当たらない。と、同時に、陶器のような彼の顔にピキッ、ピキッと音が聞こえそうになるほど、ヒビが入っていく。

「ご存じでしょうか? 他国では象という鼻の長い巨大な動物がいるのだとか」

 眉間に青筋を立て、私の腕を掴む手がどんどん強くなっていく。
 だけどその痛みが、私をさらに冷静にさせてくれる。

「巨大で力も強い象は、檻に入れる際、押しても引いてもなかなかいうことをきかないんだとか。けれどそんな象にエサを与えて引きつけると、象は簡単に檻の中へと入ってしまいます」

 鋭い視線から逃れるように、私は目をつむってこう言った。

「ただ押すだけの力技なんて、頭が使えないただの阿呆がすることです」

 そう、今のアンタのようにね。