あれ以上あの場にいれば、私はきっとキレてしまいそうだった。
 私だって、別にレオンと婚約したくないわけじゃない。それができないってだけだ。だけどそれを説明することはできないし、説明できたとしてもマルコフなら私が婚約どころか結婚することを押し通すだろう。彼はそういう男だ。

 もしも、私がこの世界に悪役令嬢として君臨していたのなら、私はきっと無理にでも彼と結婚を進めていたと思う。その上私がこの世界の進むべきストーリーを知っていたのなら、さっさと彼と結婚まで取り付けてしまい、その後レオンが苦悩しようが何しようがこの感情を優先させただろう。
 たとえその末路が断罪だろうが、死だろうが、無骨で愚直に、自分の事しか考えない利己的に。
 ……むしろそうできたなら、一層のこと清々しいのかもしれない。
 だけどレオンもマリーゴールドも私の推しで、自分が描いたマンガのキャラとは自分が産み出した子供のようなもの。

「できるわけ、ないじゃない」

 運命に抗えないのなら、自分の感情に抗うしかない。
 そう思って私は、グッと奥歯を噛んで顔を上げた。