ここで私がキールの下手な小芝居にのらなければ、今後は夜会に参加できないように裏で手を回すってことね。
 キールほどの地位があれば、私みたいなしがない男爵令嬢の一人や二人、簡単につま弾きにすることは可能でしょうね。
 出会ったこともなかった私が、キールを避けて夜会に参加してた。
 その事や、今日私がこのパーティに参加してる事など簡単に調べられるはず。
 だったら、私がなぜパーティに参加しているのかも把握しているんだと思う。

 私は前世で得た知識――アロマセラピーの知識を使って、香水事業を立ち上げたばかりだ。
 そのために社交界では人脈や、インフルエンサーを見つけて使用者を増やしたいと考えていたのだ。
 キールはそんな私の事業にケチをつけるつもりなんだ……コイツ、私が想像していたより数倍もクソ男ね。
 不快度数も爆上がりだわ。

「恐れ入りますコーデリア公爵。そろそろ女性というものを、真に学ぶ時かと存じます」

 ルビーの瞳が、みるみる見開かれていく。そこには驚きの色を乗せながら。
 キールに惚れた設定のリーチェだったらきっと、コイツが何を言おうと、いくら品行が悪かろうと受け入れて、本当の気持ちは胸の内に秘めていたと思うけど。

 ……残念ながら、今のリーチェは“私”だ。
 脅しに屈してなんか、やるものか!