「私がなぜこんなに周りくどい事をするのか……そんなものは決まってるではありませんか。公爵様の態度に一体《《誰が》》一番怒っているのか。それはレオン様ではなく、この《《私》》なのですよ!」

 結果としてはレオンに頼っているけれど、誰が誰に怒りをぶつけてるのかを明確にしたかった。
 私のために誰かが怒り、結果同じ流れになったとしても、そこにある当人である私の気持ちがきちんと怒りを消化できているか。気持ちの上で面と向かって立ち向かおうとできているか。
 それが今の私にとっては大事だった。

 まだ力はなく、弱い立場にいようとも。気概だけは負けてはいけない。
 そうでなければこの先、名声や富を得てもきっと簡単に鼻っぱしを折られてしまうだろう。
 男爵の令嬢が一人で男社会のヒエラルキーの上位とやり合うには、今からその力をつけておかなければならない。

 ……なんて皮肉にも、レオンの運命が動き出した様子を見てそう思ったのだけど。

「さっきから聞いていれば……怒ってるのはお前だけではないぞ。この俺を殴った償いは、きっちりその身で返させてやる」

 だからそれはきっちり返した……というよりも、そっちが先に手出しした返しがそのグーパンチだったんだけど。
 会話の無限ループかよ。

「では決闘に異論はないようですね。まさかとは思いますが、レオン様との決闘が嫌で、公爵様まで代理人を立てたいなどとおっしゃらないですよね?」

 あっ、はぁ? って顔をした。眉間にシワを寄せながら、片目を引き攣らせながら、こめかみはピクピクと揺れている。