「まさか公式の場で剣を持ったこともない令嬢を痛めつけるおつもりだったのなら別ですが……それではあまりに、公爵様に非難が及ぶと考えられますよ?」

 クズ男のことだ。こうでも言っておかなければ、本気で私を剣で亡き者にするつもりだろう。

「ふん、冗談に決まってるだろう」

 そう言ったキールの表情はつまらんとでも言いたげで、この表情から察するに、絶対冗談ではなかったはずだ。
 私はここぞとばかりに冷たい視線を送りながら、小さな笑みを浮かべた。

「レオン様ならきっと、喜んで代理を務めてくださるでしょうね」

 キールの眉がピクリと揺れる。

「さっきバービリオン卿からの決闘を反故にした本人が、なにを言う。お前の茶番劇に付き合ってる暇などないのだが?」

 茶番を始めたのはどっちだ。私はその茶番に付き合わされてこうなってるというのに。

「そもそもなぜ今になってバービリオン卿を選ぶ? それならばさっき止めなければよかっただろう」
「なぜ、レオン様を選んだか? レオン様は私のパートナーです。代理人には打ってつけの相手かと思います。現に先ほど、彼は公爵様に決闘を申し込んだくらいですから、今もやる気はあるかと。それにーー」

 キールの緋色の目を、挑む気持ちで睨みつけ、レオンに借りたままのジャケットを手繰り寄せた。
 そして破けた胸元を隠しながら私は、グッと胸を張った。