「それをおっしゃるのであれば、私の頬を叩いたのもどこのどいつなのでしょうか?」

 私はキールに負けじと叩かれた頬に手を当てる。頬にはまだ熱がこもっている。ひんやりと冷えた手のひらが、心地よい。
 きっと私の頬は赤く腫れているだろう。けれどキールの頬は腫れるどころか赤みすら見られない。
 それに加え、私の場合はドレスも裂かれてるわけで、どう考えても割りにあってない。受けたダメージは私の方が断然多いのだ。それなのにそもそも自分が犯した事をあたかもなかったかのように話すのは、笑止千万もいいところ。

「そもそも、私はコーデリア公爵様から感謝されても批判される側にはいないと思うのですが? なにせ騎士であるレオン様との決闘を反故にしたのは私の仲裁があったからこそ。そうでなければコーデリア公爵様、貴方様に勝ち目はなかったかと思います」

 決闘は当人同士が行う場合と、代理を立てる場合とがある。けれどレオンはキールが代理人を立てることを拒否した。よって、キールは代理人を立てる事は叶わず、自らが参加しなければならないところだった。
 となるとキールの勝ち目はほぼ0%に近い状態だ。

「……それは、バービリオン卿が勝手に逆上したのだ。それを止めるのが人の常というものだろう?」

 いけしゃーしゃーとよくもまぁ。そもそもこの男から人の常なんて説かれると思ってなかったわ。