コイツ、なに言ってんだ? 少なくとも公爵家として、貴族として、なんの話をしてるのか。
 キールの背中からでは、レオンがどういう顔をしているのかが見えない。
 私と同じようにポカーンと口を開けてるんじゃないかって気になって、その顔を見てみたいという衝動に駆られる。
 だけどタイミング悪く、キールは後ろを振り返り、私に視線を向けた。

「そうだろ? リーチェ」

 おい。なに突然、人のことを呼び捨てで呼んでくれてるのか。
 憤怒して、ひと言くらい言い返してやろうと口を開いた瞬間だった。キールは私にだけ聞こえるように、小声でこう囁いた。

「……強情なのもいいが、ここでは俺に口裏合わせておいた方が身のためだぞ」

 ルビーのような瞳が、怪しく光る。その目は完全に私を脅して、コントロールしようとする威圧的な目だ。

「今後、社交会に出られなくなっては困るだろ?」

 ニヤリとほくそ笑むキールの顔。
 キールと初めて会った時は、自分の思い描いたキャラが実際に動いてる姿に感動した。
 美男子に描いただけあって、不意に近づかれれば胸が弾んでた。

 ……けれど、今はそれすらない。
 ハンサムには変わりないのに、それをかっこいいとも、素敵だとも思えない。私の胸はもう、静かに冷え切っていた。