「――こんなところで、何をしているんだ?」


 低い声。それでいて美声。
 そんな声が、明らかに敵意を込めたような音を発していた。
 ギュッと瞑っていた目をそおっと開けてみると、薄暗い廊下の陰から現れたのは、陰と同じ黒い髪を持つ鋭い瞳の美青年。
 冷気を含んだような青い瞳が、鋭くこちらに向けられている。

 ……まさか。なんで?

 私は思わずゴクリと喉を鳴らした。
 レオン・ベイリー・バービリオン侯爵。
 この世界の男主人公だ。
 でもなんで? ここにレオンがいるのだろう?
 社交の場が好きではない彼は、皇室の公式なものでなければ参加したがらない。
 そして参加した日のパーティで彼は、ヒロインのマリーゴールドと出会うのだ。

「これはこれは珍しい。バービリオン卿がいるとはな」

 レオンの登場のおかげで、キールは私の体を解放した。
 そのことにホッとしつつ、キールに掴まれていた腕をそっと手で覆う。そこは薄っすらと、うっ血していた。
 今まではどこかマンガの世界だと舐めていたけど、なんか生々しくて……ゾッとする。
 時にはパソコンモニターの上、時には紙の上に描いた二次元のキャラに、世界。自分を創造主と呼ぶにはこの世界はどこか現実味がなかった。

 今、この瞬間までは。