「いっ、痛い!」
「ふん、よく言うな。こんなもの、俺が受けた痛みに比べたらどおってことないだろう」

 いや、ヒールの先を折っておいたんだから、私の靴だってそれほど痛くなかったはずだ。
 こんなことなら、ヒールが折れた(てい)で転んだ事になんてせず、ヒールついたまま投げつけてやればよかった。

「大丈夫ですか⁉」

 マリーゴールドはヨロヨロとした足取りで、なんとか立ち上がった。
 いや、私の事は気にせず早く逃げて! っていう意味を込めてマリーゴールドに視線を送る。はたして彼女がきちんと私の意図をくみ取ってくれているのかは分からないけれど。
 そんな風に私がマリーゴールドにアイコンタクトを送っていると。

「大丈夫に決まっている」

 キールが私の代わりにマリーゴールドに返事をした。
 いや、お前が言うなよ。私が大丈夫かどうかはあんたが一番よく分かっていないはずなんだから。
 だけど、ここはこの会話に乗っかったほうがいいのかも。

「コーデリア公爵様がおっしゃったように、私は大丈夫です。ですのであなたは先にパーティへ戻ってください」
「ですがっ!」
「私と公爵様は婚約している仲です。少し話し合いが必要なようですので、席をはずしていただきたいのです」

 私がそう言うと、マリーゴールドはショックを受けたような表情を見せた。
 ……そうでしょう、そうでしょう。だってこの男、顔だけ良しの脳みそは下半身にあるような男だもん。そんな男と婚約してるなんて正気じゃないと思うよね、普通。