「すっ、すみません! ヒールが折れて転んでしまった際に靴が飛んでしまったようです。大丈夫でしたか……って、あら? コーデリア公爵様ではありませんか」

 あらまぁ、ビックリ。
 なんて口元に手を添えて、驚いた素振りを見せた。
 あっ。まさか、こんな西洋風なお国で東洋のお面でよく見る般若顔を拝めるとは。
 鬼の形相とはまさに今のキールにぴったりの言葉だ。

「……お前、この俺に向けて」
「投げたのではありません。そして故意でもありません。事故です」

 キールが何を言いたいのか手に取るようにわかり、もうどうにでもなれと思いながら言葉を遮った。
 そしてしおらしく申し訳なさげに眉をㇵの字に変え、体を小刻みに揺らしながら立ち上がる。
 なんなら涙もほんのり浮かべてるところが、最大のポイントだ。大女優顔負けの演技力。
 涙はキールの間抜け声を聞いてお腹がよじれそうになったのを、必死に堪えたせいだけど。

 それよりもこの隙にそこの令嬢、さっさと逃げてくれないかな。じゃないと私も逃げられないんだけど……そう思ってキールの背後に隠れるように立ったままの令嬢に、目を向けた。

「――なんで」