キールの元から逃げるには、トイレに行くしかなかった。
 そのトイレにもなかなか逃げ込めなくて苦労したけど、そろそろ戻らなければならない。
 いっそのこと、このまま家に帰ってしまおうか。キールの隙をついて。
 私に従者をつけてたから、キールがそばにいなくともあいつの目はいつでも私のすぐそばにあるという事だ。
 その従者が今トイレの前で待っている。なら、トイレの窓から逃げれば従者を撒けるかも?

 そう思ってトイレの入り口とは反対側にある窓から外を覗く。
 いや、無理だ。ここは二階。しかも西洋の家ってやたら天井が高い。
 二階といっても三階くらいの高さがあるし、足場もない。無理じゃん。
 だったら――。

「きゃぁぁぁっ!」

 トイレの扉を勢いよく開け放つ。扉を開けるとキールが私に付けた従者が驚いた顔で、今にも倒れ込みそうになっている私の体を支えた。

「一体なにがあったのですか⁉」
「だっ、誰かが窓の外から覗いていてっ……!」
「窓の外、ですか?」
「きっと魔術師か誰かなんだわ! 黒いフードを目深く被っていたもの! それにここは二階なのに、宙に浮いたようにフワッと窓の外に現れたの! 本当よっ! 早く捕まえて来て‼ 今ならトイレにはあの不審者しかいないはずよ!」

 慌てながらも私の言葉に背中を押されて、従者はトイレの中へと駆け込んでいく。それを見たと同時に、私は靴を脱いで手に持ち、ドレスの裾をグイッと持ち上げて駆け出した。