レオンも追い出されてしまったし、今日はなに一つ計画通りに事が進まない。
 あの皇帝陛下の文書には驚いたし、今後キールを避ける事が出来ないこの現状に絶望しそうになるんだけど、それよりも今この瞬間をどう乗り切るかが問題だ。
 どうにかうまくこの場を立ち去らなくては、私はそのうちキールの子供でも身ごもりそうで怖い。怖すぎる。
 初対面の私にあれだけ言い寄り、人気の無い休憩室に連れ込みそうな勢いだったあのクズ野郎だ。
 公式に婚約者なんてなろうものなら、何をしでかしてくるかわかったものではない。

 現にあいつは私をパーティの間隣に立たせ、ダンスを踊らされ、他の令嬢を口説くような会話を繰り広げてる間も、私を隣に立たせた。
 っていうか婚約者がいる隣で他の令嬢を口説くって、バカなの? 何がしたいの?
 問題はあの文書があることで、簡単には婚約破棄が出来ないという事。それを分かってて目の前で浮気を繰り広げるゲス男。
 これほどまでにクズいヤツ……未だかつて見た事があっただろうか。いや、無い。
 というか、そういうキャラを作った私の落ち度だ。

「はぁ~~~~~~……」

 体の中に溜まったヘドロのようなどす黒い塊りを吐き出すかのように、洗面所に向かって深いため息をついた。
 そして身を清めるかのように、水道で手を洗い、鏡の中に映る自分に挑みかかるように見つめる。