「リーチェ!」

 声のする方へと視線を向けると、レオンは騎士に囲まれて大人しくしながらも、その青い瞳に怒りの炎が燃え滾っているのが見えた。

「……すぐに戻ります。ですからどうか、無理はなさらず。今だけ少し耐えて下さい」
「はっ、すぐに戻るだって? 俺の言葉を理解していない阿呆のようだな。卿がこの家に足を踏み入れる時は……そうだな、俺とリーチェの結婚式には参列できるよう招待状を送ろうか」

 あっはっはっ、と声高々に笑うキールには目もくれず、私はレオンの瞳を真っすぐ見据えた。ブレない瞳が、彼の信念を感じさせる。
 どうやって助けだそうというのか分からないけど、レオンはきっと何か考えがあるのだろうと思った。
 私はその言葉をただ信じるのみだ。

 レオンと目くばせをしながら、私は一度だけ首を縦に振った。
 それを皮切りに、彼はクルリと私達に背を向けて、騎士に連れられるままコーデリア公爵邸を後にした。

 ……さっさと帰ろう。
 私の頭にあるのは、この考え一択だった。
 そもそも今日のパーティに参加した理由は、キールが私を脅したから。婚約を迫るぞっていう脅しの招待状を送ってきたから、だから仕方なしに今夜は参加することにしたんだ。

 こんな展開になったのなら、もうここにいる必要はないわけで。むしろ帰りたくて仕方がない。