ホッとする温かさ。それは手袋をしている上からでも伝わる。
 普段は剣を握り、数え切れないほどに出来たマメを潰し硬くなった手は、ゴツゴツとしているはずなのに心地が良い。

「はっ」

 吐き捨てるように笑い声をあげたキール。さっきまでの苛立ちはどこかへ押しやり、私と同じように蔑んだ表情を見せた。

「気づいていないのはお前の方だぞ、リーチェ」
「……どういう意味でしょうか?」

 キールの側にいた別の従者がしずしずと手紙を差し出した。クルクルと丸められたそれは、赤いリボンで閉じられている。
 そのリボンをシュッと解き、手紙の内容を私に見せつけた。

 …………はっ。
 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎

「シャイなお前の為に、わざわざ皇帝陛下から承諾を得たのだ。ありがたく思うんだな」
「ふざけた真似を……!」

 レオンは覇気を放ちながら、一歩キールに歩み寄る。
 けれど二人の間に割って入ったのは騎士達。騎士は剣を構え、レオンを威嚇している。
 その後ろで飄々とした表情で私達を見つめるキール。
 まさに勝ち誇った顔をしている。癪に障る。けれど今はそんな事すらどうでもよかった。
 なぜならキールは皇帝陛下から直々に、私と婚約を結ぶ許可を得ていたのだから。