端正な顔が見にくく歪むその様子に、私はスーッと胸の内が晴れるような感覚を覚えつつ、すかさず緩んだキールの腕の中から抜け出した。
 抜け出したのと同時に、今度はレオンが私を抱きとめるようにギュッと腰に手を回した。

「あら、失礼致しました。あまりにもピッタリとくっついていたものですから、どうやら足を踏んでしまったようです」

 私はドレスの裾を丁寧に持ち上げ、頭を下げた。
 足を踏んだのも謝っている言葉も嘘だと分かるようなあからさまな態度。キールのこめかみがピクリと揺れた。
 ピンヒールの後は、さらなる反撃に打って出る。あからさまに小馬鹿にするという攻撃。いや、それは足を踏む前にもやってるけど。
 粘着系のゲス男は、一度くらいコテンパンに、心身ともに傷つくがいい。

「……どこまでもお前は私を愚弄するつもりなのだな」

 ひっ、と声をあげそうになる程に怒り心頭に発しているキールにも怯まず、私は胸を張った。

「誰が先に愚弄したのかを今一度お考えいただきたく思います」

 レオンは相変わらず私のすぐそばにいる。キールが再び私を引き寄せようとしたり、激高したりして殴りかかってきた場合に備えて、レオンは私を守ろうと身を固くしているのが伝わってくる。
 とても頼もしい限りだ。だからこそ私は胸を張って臆さない。

「私の事を軽んじただけでなく、私のパートナーであるレオン様の事まで愚弄したという事にも気づいていらっしゃらないのでしょうか?」

 レオンの手を掴み、ギュッと握りしめる。
 彼の大きな手が一瞬ぎこちなく固まったよう気がしたけど、すぐに私の手を握り返してくれた。