「へっ、クズ! ヘぇっ、クズ!」

 くしゃみの出る口元を手で覆いながら、キールから顔を背ける。
 私がそうした動作をしているのとは打って変わり、キールはピタリと動きを止めた。
 目の前に立つレオンは驚いたように、少し目を見開いた。

「失礼致しました。どうやら夜風で冷えてしまったようです……へっ、クズ! クズッ! クズッ!」
「お前……クズとは、この俺に向かって言ってるのか? 俺を誰だと思ってるんだ……っ!」

 キールはギリリと歯ぎしりをし、レオンに関しては珍しく笑いを堪えたような表情を見せた。

「まさか!? とんだ勘違いです。これはただのくしゃみですので。ああ、また……クズッ、クズッ!」
「このっ……!」

 キールが今にも噛みつきそうなほど、私を絞めあげようとした瞬間ーー。

「いっ……!」

 ーーヒールの踵で思いっきりキールの足を踏みつけた。
 レオンが動き出したのを目の端で捉えたけど、彼が私を助け出そうとするより先、そしてキールが私に危害を加えるより先に取った行動だった。

 どうだ、参ったか。会心の一撃、ピンヒール(10センチ)の威力を。