「コーデリア公爵、リーチェは私のパートナーだ、離していただこう」

 表情までは見えないけど、レオンの口調は明らかに鋭い。
 キールに対して怒っているのは間違いないのに、キールは臆すどころか、飄々とした様子でこう言った。

「何を言っているんだ? リーチェは私のパートナーだ。バービリオン侯爵こそ勝手な勘違いをしないでもらいたい」

 キールと出会ったのはそんなに遠い昔の話ではないにも関わらず、あの当時、出会ったばかりの頃に感じていた胸の内に感じたトキメキはウンともスンともいわない。むしろ不快だ。
 顔が良いのは正義だとすら思った事のある前世の私が、どれほど愚かだったのかを痛感しつつ、私はこの不快男の腕の中から逃れるべくして身をよじる。
 けれどそれは上手くいかない。逃げようともがけばもがくほど、キールはさらに私を強く抱きしめ、逃さない。

 こうなれば直談判だ。

「コーデリア公爵様。恐れ入りますが、今宵はパーティに招待された客の一人であって、決して公爵様のパートナーという訳ではないと思うのですが?」
「ああ、伝達ミスがあったようだな。私はリーチェをパートナーとして招待したつもりだったのだ」

 だからその後出しジャンケンはナシでしょ。

「招待状を手配させた者を即刻処理しよう」

 それで良いか? なんて首を傾げながら微笑むこの男は、まごう事なきクズだ。クズ上司だ。
 下の者に責任を押し付けて、自分は悪くないと言い張るこの様子、ブラック企業や政治家でよく見た光景そのもの。

 ……虫酸が走る。