「でしたら仕方がないわね。レオン様、せっかく来たところではありますが、今日はもう帰りましょうか」

 私は添えるように乗せていたレオンの腕をギュッと引っ張り、身を翻す。
 そっちがその気なら、こっちだって応戦だ。
 そもそもキールが私とレオンの関係をすでに知っているのであれば、わざわざパーティに参加する必要はないのだ。

 私が今日ここに来たのは、キールの脅しとも取れる(というか脅してたけど)言葉のせい。
 ここに来なければ私との婚約をマルコフに提案すると言ったあれだ。
 すでにマルコフにもレオンとの偽カップル情報を流し、婚約する意思を伝えている。
 キールよりも手堅いレオンを推した事で、いくらキールが婚約を申し込もうとしたところで、今のマルコフなら靡かないはず。

 だから今となっては、パーティに参加する必要性がない。
 そう思っていたらーー。

「リーチェ、男を弄ぶのはほどほどにしておけよ」

 レオンの腕を掴んでいた手を無理に解かれ、鼻腔内に甘い香りが漂った。
 私の体を引き寄せて、その胸の中にギュッと閉じ込めたのは毎度おなじみである、キール・ロッジ・コーデリア公爵閣下だった。

「リーチェ!」
「おおっと、気軽に触れないでもらいたいものだな」

 レオンが私を引き戻そうとしてくれたけど、それをキールが邪魔をする。
 私はキールの力強い腕に抱きとめられて身動きが取れない。