「到着致しました」

 馬車が停まってすぐ扉をノックする音と共に、従者の声が聞こえた。
 レオンが壁をノックすると、外で待ち構えていた従者がガチャリと音を立てて扉を開けた。

 先に馬車を降りたレオンの手を取り、私は続いて馬車を降りた。
 馬車の足場を降りた後、離そうとした私の手を引き、レオンはそこにキスをする。
 チュッと音を立てた後、唇を押し当てたままの状態で、上目遣いからの絡みつく視線。

 ……やばい、本当に私を落としにかかってる。

 自分の意思とは相反して、ポッと頰に熱が上がる。
 それを誤魔化そうとでもするかのように、私はスッと手を引いてレオンの唇から引き離した。
 その行動は令嬢としてマナー違反だと分かっていても。

 レオンは(こた)えた様子はなく、飄々とした様子で口元には笑みを乗せて、右腕をくの字に曲げた。私のエスコートをする為だ。

「それでは行きましょうか。心の準備はできていますか?」
「何に対する心の準備でしょうか?」

 私はレオンの腕に手を乗せ、普段硬い表情をしている彼が柔らかく微笑むのを横目で見た。

「私達の関係を見せつける、準備ですよ」