……これ試作品だって言ったけど、もう売りに出せるかもしれないな。
 なんて、そんな風に思わないと理性を保てない。

「勘違いとは、どういう意味ですか?」

 顔を覆っていたハンカチをそっとズラされて、私は再びレオンと顔を付き合わせる事になった。
 薄暗い馬車の中で、レオンの青い瞳は妖艶に輝いて見える。

「一時の迷いというものです。私にそんな告白をして、後々レオン様は後悔する事になりますよ」
「後悔などいたしませんよ。伝えた言葉は全て本心ですから」

 今はね。なぜか今はそう感じてしまっているだけ。マリーゴールドに出会えば、私に告白した事を後悔する事になるのはあなたの方なのだから。

 私にこんな告白をした事も、そしてその上、付き合ってしまったら場合、きっとあなたは苦悩する事になるだろうから。
 簡単に人に心を許さないレオンの性格上、許した後に本命に出会ってしまったら……あなたはどう言って私に別れを切り出すつもりだろうか。
 そして私は、どうやってレオンを手放せばいいのだろうか。

 そう思うと、今は形だけの方がいい。いつでも後腐れなく別れられるような関係でいた方がいい。
 それがお互いの為なのだから。

「私は人の気持ちを信じきれないところがあります。今はそう言っていても、きっと近い将来、レオン様は心変わりをされると思っています」
「……では、どうすればリーチェは私の言葉を信用してくださるのですか? 私は心変わりすることはありません。この先もずっと。私は私の事を誰よりも分かっているつもりですから」

 私は、あなた以上にあなたの事を分かっているし、理解しているつもりだ。
 それを言ったところで理解してもらえないだろうし、理由を聞かれたところで答える事もできないから、言わないけど。