「血は出しておいた方がいいかもしれませんね。リーチェの瘤の治りが早くなるかもしれませんから」

 そう言って彼は胸ポケットからハンカチを取り出し、それを私の鼻に当ててくれている。
 ……何なの、その理由。
 ってか、何これ。介護?
 頭ぶつけて瘤作った挙句、二度目とはいえ興奮して鼻血垂れる女に引くどころか、鼻血を拭いて優しく介抱してくれる、イケメン。
 ここはどこの高級介護施設なの?

「あの、余計に止まらなくなりそうですので、起き上がってもいいでしょうか?」
「どうして余計に止まらなくなるのかが分かりませんね。 なので、私が納得する理由であれば起き上がるのを許可しましょう」

 許可制?

「その、お恥ずかしながら、こういう事には慣れていないのです」
「こういう事とは?」
「ひざ枕……とか」

 盗み見するようにチラリと目だけでレオンに視線を向ける。するとレオンはフッと優しい笑みを零した。

「そのような理由であれば、棄却いたします」

 何でよ。
 鼻血が出ているというのに、私は思わず鼻で大きく息を吸い込んだ。その時にあれ? と小さな疑問が生まれる。

「あの、一つ聞いてもいいでしょうか」
「何ですか?」
「このハンカチにも、媚薬香水を振ってらっしゃいますか?」
「ええ、振りました」

 ……やっぱり。
 さっきより香水の香りが強く感じるなって思ったのよね。鼻が詰まってるような状態なのに、頭につけたペパーミントの香りより強く感じるなんて変だなって。