分からないけど、頭がクラクラして来た事だけは確かだ。
 その時ふと、私の鼻腔にかすったほのかな香り。私は鼻をクンクンと犬のように動かした。

「レオン様、今日はあの香りをつけていらっしゃいますか?」

 あの香りとはもちろん、毎度おなじみ媚薬香水のことだ。
 甘く、妖艶で魅惑的な香りに、今の今まで気づかなかった。むしろ香りなんてなくとも、レオンは魅惑的だ。今日は特に。
 私が彼から香る仄かな媚薬の匂いを嗅いでいると、レオンはにっこりと笑みを零した。

「ええ。この香水を今日付けずして、いつ付けろというのですか?」
「ですが、これは念のためとおっしゃっていたではありませんか」

 今現在使用したい相手がいないと言ってたよね? 将来使いたい相手が見つかった時用に……みたいな。
 大勢の令嬢がやってくるパーティの日につけるなんて、正気なの?
 それでなくともレオンは人気者だというのに、プラスで媚薬の効果がある香水をつけてたら、虫のように女性が集まるに決まっている。

 まるでゴキ●リホイホイじゃないか。
 いや、綺麗に着飾った令嬢をゴキなんて言うのは表現が間違ってるかも。
 美しい花に美味しい蜜を求めて群がる蝶やミツバチといったところだろうか。

「今日はどうしても虜にしたい女性がいるのでね」

 そう言って、レオンは再び私の髪にキスをした。