そう言って、私の鼻血防波堤を相変わらずいとも簡単に決壊させるこの男。
 優しく手を握りしめられているというのにこの力に抗うことが出来ないなんて、なんて強力なんだ。
 力ではなく魔力? 結界? 目に見えない何かが、私をがんじがらめにする。
 振り払う事など容易いはずなのに、全くもって抗えない。

「万が一鼻血を出されても、私がそばにいるのですから大丈夫ですよ。いつでも私がそんなあなたの姿を隠して差し上げますので」

 それは、この前みたいに抱きしめて……って事なのか?

 ああ、神様。私の第二の人生をこの世界で生きれるようにしてくださって、本当にありがとうございます。
 感謝の気持ちが伝わるように、大事なことなので二度言います。
 神様、本当にありがとうございます。

「侯爵様は噂と違い、私が思っていたよりも女性に慣れていらっしゃるようですな?」

 ちょび髭を撫で付けたマルコフは「ふむっ」と言いながら考え込むような表情を見せている。

「まさか。今でこそ遠征回数は減っていますが、普段の私は戦地へ赴き、女性との交流はほとんどない生活を送っておりましたので、噂通りの堅物ですよ」
「ですが……?」
「男爵はおかしな事を言いますね。相手がリーチェだからに決まっているではありませんか。私が女性に慣れている訳ではありませんよ。全ては相手がリーチェだからです」

 そうでしょう? なんて言いそうな表情で私に視線を向けるけど、なんて答えたらいいのか分からないんだけど。