――ひー!

 絶叫しそうになるのを、必死になってこらえる。

「そ、そういうことは、おやめください」
「そういうこととは、これのことか?」
「ひっ!」

 今度はさすがに声が漏れてしまった。
 キールは私の指をパクリと食べ、さらに顔を距離を詰めたせいだ。
 私達、初対面だよね⁉ なのに引くどころか、ぐいぐいくるじゃん……!
 さすがは女たらし‼

初心(うぶ)だな」
「こっ、こんなことされては困ります! 道を開けてくださいませ」

 空いた手で押し返そうとするが、びくともしない。
 さらにはなぜかアゴクイまでされてしまう始末。
 無理やり顔を向けられた先には、情熱の赤が私の姿を映し出している。
 その瞳には面白いものを見るような、リーチェという令嬢を見定めるような、そんな色をのせている。

「俺のことを避けていたのだろう? なぜだ?」

 ……えっ、バレてたの? ってかなんで?
 会ったことのない令嬢を気にすることなんてある?
 むしろどうやって私のことを知ったの……?

「俺は社交界に参加している令嬢のことは把握しているつもりだ。たとえまだ一度も会ったことがないとしてもな」

 さすがは、キングオブ遊び人!
 しかもこんなにあっさり言われてしまうと、いっそのこと清々しいな。