「凪沙ちゃん?」
 不意に誰かから名前を呼ばれて、ふり返るとそこには背が高くて髪の長い女のひとがたたずんでいた。その顔はどことなく拓海の面影があった。
「澄江さん」
 拓海のお姉さんだ。あたしはあわてて涙をふいた。
「あの、あたし……信じてもらえないかもしれないんですけど」
 すると、澄江さんは、分かっている、というふうにうなずいて。
「拓海のことでしょう? 実はね、生前拓海から凪沙ちゃんに渡してほしいものがあるってことづけられてたのよ」
「え!?」

 あたしに?

 澄江さんは、
「あの子ね、息を引き取る前に夏祭りの日が来たら、あなたに自分の想いをこめた誕生日プレゼントを渡してほしいって。最期までずっと凪沙ちゃんのことを想ってたのね。お家に行ったら花火大会に出かけたっていうから、この人混みのなかからあなたのこと探せるかな? って心配してたんだけど、不思議ね、拓海が導いてくれたみたい」
 と、さみしそうにほほえんだ。

 ドキドキしながら澄江さんからプレゼントを受け取ると、小さな箱のなかに、文字が刻まれたピンクゴールドのブレスレットが入っていた。
「きれい……」
「そのブレスレットね、英語で『大切なきみがいつまでも幸せでありますように』ってメッセージが記されてるんですって」

 大切なきみがいつまでも――。
 悲しい気持ちが少しずつ泡となって心から放たれていく。
 心の傷を癒すには時間がかかるかもしれないけど、それでも。

「これからも、ずっと大好きだよ。拓海。約束守ってくれてありがとう」
 あたしは、まだかすかに赤い目のまま、ほほえみを浮かべてみせた。