そのとき、パァン、と風船が大きくはじけるような音がした。
 夜空に、大きなオレンジ色の花火が浮かび上がっている。
「おっ、始まったな」
 拓海が空を見上げる。
 あたしの問いかけは、花火の音にかき消されて拓海の耳には届かない。
 鮮やかな花火が、次々に夜空を彩っては消えて行く。
 すっごくキレイ。それなのに。
 まるで楽しかった思い出が、あっという間に幻になっていくような切なさが胸にこみあげる。
 終わらないで、このままずっと続いて。
 こんなに華やかなのに、生き生きとしてるのに、消えちゃうなんてイヤだよ。

 思わず拓海のほうを見ると、拓海の身体がさっきよりも透けているのに気づいた。
 拓海は涙目のあたしに気づくと、少し困ったように苦笑いして、
「そんな顔すんなって。オレはこれからもずっと凪沙のそばにいるから。例え、姿が見えなくなっても」
「やだ。これからも、拓海といっしょにいたいよ。たまに離ればなれになっても、またこうやって会いたい――」
 拓海は泣きじゃくるあたしをギュッと抱きしめると、
「オレ、凪沙に出会えてよかったよ。だから、これからもどうか笑顔でいてくれ。オレ、ずっとお前のこと見守ってるから」
 と、キスをした。
 花火のきらめきで、昼間のように空が明るくなったかと思うと、まるで魔法が解けたかのように静かになった。
「拓海……?」
 
もうあたしの前に拓海の姿はいなかった。
 あの無邪気な笑顔も、少し低めの声も、どこにも見えない、聞こえない。
 夏祭りの夜が終わったんだ――。