「お客さん、ラジオ聞いてもいいですかい?」


「は? それは別にかまいませんが……」


「すみませんねぇ。うちの会社、ホントは乗務中はラジオ禁止なんですよ。でもこの時間は贔屓にしている番組があって……」


と言い、タクシーの運転手はラジオをつけた。


ちょうどそのタイミングで音楽が流れてきた。


ジャンルはロックで、しゃがれた声のシンガーが、終末を歌っていた。


そのシンガーが歌っている歌詞の中に、印象的なフレーズがあった。


「終末だっていうのに、パンを焼く余裕があるなんて、いいもんですよね」


「はい?」


「あ、いえ、この曲の話です」


「ああ、ミッシェルね。若い方でもご存知なんですか?」


「いえ、初めて聴きました」