もしかして、これは夢……?

こんな大ピンチの状況からまさか神宮寺君が助けてくれるなんて。


神宮寺蒼弥(そうや)君。

隣りのクラスの人気者で、常に彼の周りには人が集まってると思う。

サッカー部のエースで、それでいてカッコよくて、誰にでも優しくて。

一度も言葉は交わした事はないし、共通点なんて一つもないから関わった事もなく、彼が私の存在を知るわけがない。

ただ、神宮寺君は私と違って目立つし、美術室からよくサッカー部のグラウンドを見てるから一方的に知ってる。

だから、夢じゃないかって疑ってしまうのも無理はない。

こんな風に、彼は困った人を見つけたら、誰が相手でもすぐに助けてしまうのだろう。

繋がれた手は温かく力強く、いつまでも終わらなければいいのにと、心の中で願ってしまった。


駅前まで来ると、人の流れが落ち着き、見慣れた場所にたどり着けたとホッと息をつく。


「ちょっと待ってて」


胸をなでおろしたところで、神宮寺君が私の手を離して、コンビニへ入っていく。


「……あ!」


私、まだ一言もお礼を言っていない!

お礼どころか、神宮寺君が心配してくれているのに、何も答えてないし……。

私、かなり印象悪くない……?


「ごめん、お待たせ。……はい」

「えっ?」


コンビニから出てきた神宮寺君は私にスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。


「さっき、人混みの中かなり暑かったじゃん?具合悪くなったのかと思って。いくら日が暮れたとはいえ、人混みの中はまだまだ暑いんだから熱中症には気を付けないと」