5話
◯学校、1ーCの教室。午後。
授業が全て終了し、チャイムが鳴っている。
英美里「6限目に体育やんのしんどい〜。せっかく着替えたのに、この後、部活なんだけど〜」
茜「英美里、お疲れ様」
体育用スポーツバッグを机に置きながらぐったりする英美里。
英美里「あとはホームルームかぁ。昨日の今日だし心配してたけど、今日は小林先生の様子、普通だったね。このまま何事もなきゃいいけど」
茜「そうだね」
茜(小林先生、悪霊に取り憑かれてるはずなんだけど、いつも通りだった)
結城「それなんだけど」
茜「わっ!」
隣の結城が話しかけてくる。
思わずびっくりしてしまう茜。
茜「ご、ごめん、何?」
結城「嫌な予感がすると思って。何かあっても、俺が口を出すまで黙っててくれるか?」
茜「え? う、うん」
茜、結城の意図がわからずキョトンとするも頷く。
そこに小林が入ってくる。
小林「お前たち、鞄から手を離しなさい」
突然のことにざわつく教室内。
小林はバンッと教壇を叩く。
小林「このクラスに、タバコを持ち込んでいるという生徒がいると告発があった。今から抜き打ちの荷物検査をする!」
ニタッと笑う小林。さらにざわつく教室。
クラスメイト「うそ、タバコ?」「そんなやついるか?」「早く帰りたいのに……」
小林は生徒たちの鞄を開けて中身を確認していくが、タバコは出てこない。
小林「次は瀬名だな」
茜「は、はい」
小林が茜の鞄を開けると、そこには未開封のタバコの箱が入っていた。
茜「う、うそ……」
さらにざわつくクラスメイト。
小林「おいおい瀬名! これはどういうことだ?」
茜「し、知りません!」
茜(どういうこと……?)
茜の顔から血の気が引いていく。
ニタニタと笑う小林。
茜(もしかして小林先生が、鞄にタバコを入れたの?)
茜の脳裏に、体育で無人になっている教室に小林がやってきて、茜の鞄にタバコを入れるという想像図が浮かぶ。
茜(はめられた……!)
英美里は怒った顔で机を叩く。
英美里「茜がタバコなんて吸うわけない!」
小林「だが、現にタバコがあった。瀬名、未成年の喫煙は禁止されているって、知っているよなぁ? 親御さんがこれを知ったらどう思うか……」
茜は青くなりガクガク震える。
結城「あの」
結城は突然立ち上がる。
小林「犀川は黙って──」
結城「その鞄、俺のです」
結城が掲げた鞄には、見覚えのあるマスコットがついている。
茜は改めてタバコが出てきた鞄の中を見ると、犀川結城と書かれたノートが出てくる。
茜「え、あれ? 本当に結城くんの鞄だ。どうして鞄が入れ替わってるの?」
小林「な、なんだと……」
結城「タバコが入ってたのは俺の鞄なんで、瀬名さんは無関係ですよね」
茜「結城くん!?」
茜(まさか私を庇うために、あらかじめ鞄を入れ替えていたの!?)
茜は、先ほどの結城の言葉を思い返し、鞄を入れ替えて茜を庇ったのが結城だと悟る。
計画がうまく行かなかった怒りで顔を赤くする小林。
結城「それから、タバコも俺のじゃないです。小林先生が買ったものですよね」
小林「な、なにを馬鹿なことをっ! 瀬名っ、正直に自分のタバコだと言え! でなければこのクラスは連帯責任で──」
声「待ってください」
ガラッと教室の扉が開く。教師の坂主が教室に入ってくる。
坂主「小林先生、教室の外で話を聞かせてもらいました。小林先生が特定の女生徒に関して距離感がおかしいと相談を受けていましたが、ちょっと問題ある態度ではありませんか」
小林「さ、坂主先生!? いや、違うんです。生徒がタバコを所持しているという告発があり……」
坂主「その告発者は誰なんですか。名前を教えてください。私の方で真偽を確かめますから」
小林「ぐ……それは……。だ、だが、現にタバコが見つかったんだ!」
焦りながら言い逃れしようとする小林に坂主は悲しい顔をする。
結城「小林先生は喫煙家じゃなかったですよね」
小林「そ、それがなんだと言うんだ!」
結城「じゃあ、どうしてコンビニでタバコを買っていたんですか」
小林はギクッと震える。
小林「し、知らん! タバコなんて買っていない!」
結城「今朝、学校最寄りのコンビニで小林先生が購入しているのを見かけました。このタバコと同じ銘柄に見えましたが」
コンビニレジでタバコを買う小林と、それを棚の陰でこっそり見ている結城の回想。
小林「いや、その……忘れていた。急に吸いたくなって買ったんだ。銘柄が同じなのはただの偶然だ!」
坂主「いえ、小林先生。このメーカーのタバコは箱に製造番号が記載されています。コンビニにもレシート控えがあるから、番号を照合すれば言い逃れはできないんです。正直に言ってください!」
ガクガク震え出す小林と、冷静に問い詰める坂主。
冷静な結城と裏腹に混乱している茜。
茜「ど、どうして……」
結城「竹之内はかつて目をつけた女生徒の鞄にタバコを潜ませたんだ。小林も竹之内と同じことを茜さんにするかもって思って。小林はいつも朝七時に学校最寄りのコンビニで買い物するのを知ってたから、見張ってたんだ」
目を見開く茜。
茜(結城くん、私のことを守るために色々考えてくれたんだ)
結城の遠回りな優しさに胸が温かくなる茜。
クラスメイト「え、じゃあ小林先生が鞄にタバコを入れたわけ?」
クラスメイト「瀬名さんを脅そうとしたってこと? それって犯罪じゃん!」
クラスメイト「やだ……信じられない!」
教室内がざわつく。
小林「うぐっ……うああああーっ!」
坂主「こ、小林先生!?」
小林、突然頭を抱えて倒れる。慌てふためく坂主。
小林の体から、黒い巨大な蜘蛛の形をした悪霊が出てくる。
坂主や周囲の生徒には蜘蛛は見えていないが、蜘蛛から瘴気が出ており、空気が澱んでいる。
茜「ひっ……」
恐ろしい蜘蛛の姿に真っ青な顔で怯える茜。
蜘蛛は教室内に黒い糸を大量に吐き出す。
茜「きゃああっ!」
結城「茜さん、危ない!」
結城に覆い被され、庇われる茜。結城は自分についた蜘蛛の糸を引きちぎる。
クラスメイト「なんか……苦しい……」
クラスメイト「気持ち悪い……」
蜘蛛の糸に触れた坂主とクラスメイトたちが胸を押さえる。苦しそうにふらつき、倒れたり机に突っ伏したりして、意識を失う。
無事なのは結城と、庇われた茜だけだった。
茜は倒れた英美里に手を伸ばすが、結城に止められる。
結城「この糸に触るな!」
茜「でも英美里が!」
結城「気を失っているだけだ」
結城(だが、このまま生気を奪われ続けると……)
教室の窓や扉も蜘蛛の糸で開かない。
表情に焦りを見せる結城。
蜘蛛「ああ……美味い。ちまちまと生気を集めるのではなく、最初からこうすればよかった」
蜘蛛「しかし……ほんの少し味見をした贄巫女の極上の味……忘れられない……」
結城「贄巫女……?」
蜘蛛「贄巫女の力を我が物とすれば、いっそう強くなれる……!」
蜘蛛は複眼に茜を写している。
結城(贄巫女って茜さんのことか?)
再び蜘蛛に狙われる茜だが、結城が茜を背に庇い、代わりに攻撃を受ける。
結城「ぐっ」
茜「結城くん!」
茜を庇うことで、結城は蜘蛛に攻撃することができない。
防戦一方で、追い詰められる二人。
茜(私がいるせいで結城くんが攻撃できないんだ)
茜「私のことはいいから、悪霊を倒して!」
結城「嫌だ! 茜さんが怪我するのをもう見たくない……!」
結城、必死な形相で頑なに拒否する。
茜(……どうしよう、このままじゃ結城くんが)
結城と茜は蜘蛛に押されて少しずつ下がる。コロコロと転がってきた制汗スプレーが茜の足にカツンと当たる。
茜は蜘蛛の方を向くが、恐怖に体が震え上がる。
茜(でも……私がなんとかしなきゃ……!)
震える手で制汗スプレーを拾い上げる。
◯学校、1ーCの教室。午後。
授業が全て終了し、チャイムが鳴っている。
英美里「6限目に体育やんのしんどい〜。せっかく着替えたのに、この後、部活なんだけど〜」
茜「英美里、お疲れ様」
体育用スポーツバッグを机に置きながらぐったりする英美里。
英美里「あとはホームルームかぁ。昨日の今日だし心配してたけど、今日は小林先生の様子、普通だったね。このまま何事もなきゃいいけど」
茜「そうだね」
茜(小林先生、悪霊に取り憑かれてるはずなんだけど、いつも通りだった)
結城「それなんだけど」
茜「わっ!」
隣の結城が話しかけてくる。
思わずびっくりしてしまう茜。
茜「ご、ごめん、何?」
結城「嫌な予感がすると思って。何かあっても、俺が口を出すまで黙っててくれるか?」
茜「え? う、うん」
茜、結城の意図がわからずキョトンとするも頷く。
そこに小林が入ってくる。
小林「お前たち、鞄から手を離しなさい」
突然のことにざわつく教室内。
小林はバンッと教壇を叩く。
小林「このクラスに、タバコを持ち込んでいるという生徒がいると告発があった。今から抜き打ちの荷物検査をする!」
ニタッと笑う小林。さらにざわつく教室。
クラスメイト「うそ、タバコ?」「そんなやついるか?」「早く帰りたいのに……」
小林は生徒たちの鞄を開けて中身を確認していくが、タバコは出てこない。
小林「次は瀬名だな」
茜「は、はい」
小林が茜の鞄を開けると、そこには未開封のタバコの箱が入っていた。
茜「う、うそ……」
さらにざわつくクラスメイト。
小林「おいおい瀬名! これはどういうことだ?」
茜「し、知りません!」
茜(どういうこと……?)
茜の顔から血の気が引いていく。
ニタニタと笑う小林。
茜(もしかして小林先生が、鞄にタバコを入れたの?)
茜の脳裏に、体育で無人になっている教室に小林がやってきて、茜の鞄にタバコを入れるという想像図が浮かぶ。
茜(はめられた……!)
英美里は怒った顔で机を叩く。
英美里「茜がタバコなんて吸うわけない!」
小林「だが、現にタバコがあった。瀬名、未成年の喫煙は禁止されているって、知っているよなぁ? 親御さんがこれを知ったらどう思うか……」
茜は青くなりガクガク震える。
結城「あの」
結城は突然立ち上がる。
小林「犀川は黙って──」
結城「その鞄、俺のです」
結城が掲げた鞄には、見覚えのあるマスコットがついている。
茜は改めてタバコが出てきた鞄の中を見ると、犀川結城と書かれたノートが出てくる。
茜「え、あれ? 本当に結城くんの鞄だ。どうして鞄が入れ替わってるの?」
小林「な、なんだと……」
結城「タバコが入ってたのは俺の鞄なんで、瀬名さんは無関係ですよね」
茜「結城くん!?」
茜(まさか私を庇うために、あらかじめ鞄を入れ替えていたの!?)
茜は、先ほどの結城の言葉を思い返し、鞄を入れ替えて茜を庇ったのが結城だと悟る。
計画がうまく行かなかった怒りで顔を赤くする小林。
結城「それから、タバコも俺のじゃないです。小林先生が買ったものですよね」
小林「な、なにを馬鹿なことをっ! 瀬名っ、正直に自分のタバコだと言え! でなければこのクラスは連帯責任で──」
声「待ってください」
ガラッと教室の扉が開く。教師の坂主が教室に入ってくる。
坂主「小林先生、教室の外で話を聞かせてもらいました。小林先生が特定の女生徒に関して距離感がおかしいと相談を受けていましたが、ちょっと問題ある態度ではありませんか」
小林「さ、坂主先生!? いや、違うんです。生徒がタバコを所持しているという告発があり……」
坂主「その告発者は誰なんですか。名前を教えてください。私の方で真偽を確かめますから」
小林「ぐ……それは……。だ、だが、現にタバコが見つかったんだ!」
焦りながら言い逃れしようとする小林に坂主は悲しい顔をする。
結城「小林先生は喫煙家じゃなかったですよね」
小林「そ、それがなんだと言うんだ!」
結城「じゃあ、どうしてコンビニでタバコを買っていたんですか」
小林はギクッと震える。
小林「し、知らん! タバコなんて買っていない!」
結城「今朝、学校最寄りのコンビニで小林先生が購入しているのを見かけました。このタバコと同じ銘柄に見えましたが」
コンビニレジでタバコを買う小林と、それを棚の陰でこっそり見ている結城の回想。
小林「いや、その……忘れていた。急に吸いたくなって買ったんだ。銘柄が同じなのはただの偶然だ!」
坂主「いえ、小林先生。このメーカーのタバコは箱に製造番号が記載されています。コンビニにもレシート控えがあるから、番号を照合すれば言い逃れはできないんです。正直に言ってください!」
ガクガク震え出す小林と、冷静に問い詰める坂主。
冷静な結城と裏腹に混乱している茜。
茜「ど、どうして……」
結城「竹之内はかつて目をつけた女生徒の鞄にタバコを潜ませたんだ。小林も竹之内と同じことを茜さんにするかもって思って。小林はいつも朝七時に学校最寄りのコンビニで買い物するのを知ってたから、見張ってたんだ」
目を見開く茜。
茜(結城くん、私のことを守るために色々考えてくれたんだ)
結城の遠回りな優しさに胸が温かくなる茜。
クラスメイト「え、じゃあ小林先生が鞄にタバコを入れたわけ?」
クラスメイト「瀬名さんを脅そうとしたってこと? それって犯罪じゃん!」
クラスメイト「やだ……信じられない!」
教室内がざわつく。
小林「うぐっ……うああああーっ!」
坂主「こ、小林先生!?」
小林、突然頭を抱えて倒れる。慌てふためく坂主。
小林の体から、黒い巨大な蜘蛛の形をした悪霊が出てくる。
坂主や周囲の生徒には蜘蛛は見えていないが、蜘蛛から瘴気が出ており、空気が澱んでいる。
茜「ひっ……」
恐ろしい蜘蛛の姿に真っ青な顔で怯える茜。
蜘蛛は教室内に黒い糸を大量に吐き出す。
茜「きゃああっ!」
結城「茜さん、危ない!」
結城に覆い被され、庇われる茜。結城は自分についた蜘蛛の糸を引きちぎる。
クラスメイト「なんか……苦しい……」
クラスメイト「気持ち悪い……」
蜘蛛の糸に触れた坂主とクラスメイトたちが胸を押さえる。苦しそうにふらつき、倒れたり机に突っ伏したりして、意識を失う。
無事なのは結城と、庇われた茜だけだった。
茜は倒れた英美里に手を伸ばすが、結城に止められる。
結城「この糸に触るな!」
茜「でも英美里が!」
結城「気を失っているだけだ」
結城(だが、このまま生気を奪われ続けると……)
教室の窓や扉も蜘蛛の糸で開かない。
表情に焦りを見せる結城。
蜘蛛「ああ……美味い。ちまちまと生気を集めるのではなく、最初からこうすればよかった」
蜘蛛「しかし……ほんの少し味見をした贄巫女の極上の味……忘れられない……」
結城「贄巫女……?」
蜘蛛「贄巫女の力を我が物とすれば、いっそう強くなれる……!」
蜘蛛は複眼に茜を写している。
結城(贄巫女って茜さんのことか?)
再び蜘蛛に狙われる茜だが、結城が茜を背に庇い、代わりに攻撃を受ける。
結城「ぐっ」
茜「結城くん!」
茜を庇うことで、結城は蜘蛛に攻撃することができない。
防戦一方で、追い詰められる二人。
茜(私がいるせいで結城くんが攻撃できないんだ)
茜「私のことはいいから、悪霊を倒して!」
結城「嫌だ! 茜さんが怪我するのをもう見たくない……!」
結城、必死な形相で頑なに拒否する。
茜(……どうしよう、このままじゃ結城くんが)
結城と茜は蜘蛛に押されて少しずつ下がる。コロコロと転がってきた制汗スプレーが茜の足にカツンと当たる。
茜は蜘蛛の方を向くが、恐怖に体が震え上がる。
茜(でも……私がなんとかしなきゃ……!)
震える手で制汗スプレーを拾い上げる。