○空港
 急遽(きゅうきょ)フランスへと向かうことになった朔夜をお見送りする透夏。
 未だに青い顔のままだった朔夜の頬をむぎゅっとつまんだ。


 透夏「ほら、そんな顔していたらお父さんに笑われるかもしれないでしょ! ……きっと大丈夫だよ」


 透夏も不安でないと言ったらウソになる。
 けれど朔夜が不安なときは自分が支えてあげないと、という気持ちが大きい。


 搭乗(とうじょう)のアナウンスが入る。


 ……もうお別れだ。


 朔夜「……すぐに連絡する。いつになるかわからないけど、でも絶対に戻ってくる。だから……どうか待っていて」


 朔夜は父親の件と、透夏の件の二つの不安を抱えている。

 それでも約束してくれた朔夜に、透夏は自身のつけていたブレスレットを外して渡す。


 朔夜「これ……」
 透夏「うん。昔、家族で作ったブレスレット」

 朔夜「大切なものなんじゃないのか?」
 透夏「だからこそ、朔夜くんに(たく)しておくの。……きっと大丈夫だから。だからいつか、返しに来て」


 透夏にとっては父の形見(かたみ)のようなものだ。
 けれど、朔夜に持っていてほしかった。


 透夏「私ね、辛いときはいつもこれを見ていたの。これには幼いころの幸せがたくさん詰まっているから、見ていると頑張れた。だから、辛くなったらこれを見て。……気持ちはいつでも朔夜くんのそばにいるから」


 寂しい気持ちはもちろんある。
 でもそれ以上に朔夜に後悔(こうかい)してほしくなかった。



 だから笑って見送る。

 朔夜のかかえる不安ごと、笑い飛ばすように。



 透夏「私はずっと待ってるよ。こっちのことはなにも心配しなくていい。だから朔夜くん、早く行ってあげて」

 朔夜「……透夏」


 朔夜はそう言うともう一度透夏をぎゅっと抱きしめた。
 そして体を離す。


 最後に離れたのはずっと繋いでいた手だった。




 ○空港の屋上
 朔夜の乗っているであろう飛行機を見送っている透夏。


 (透夏のモノローグ)


 私は朔夜君が頑張っているって思えば、いくらでも待ち続けられる。

 だから彼がいつ帰ってきても恥ずかしくないように、自分にできることを頑張り続けよう


 (透夏のモノローグ終わり)