甘い、ケーキのようなキスだった。

 お互いもっと欲しくて、口が離れるのが寂しくて。
 苦しくなって息が上がるのに、それでも離れたくない、だなんて……。


 透夏(ああ、いつの間にこんなに好きになっていたのかな……)


 唇が少しだけ離され、朔夜を見上げる透夏。
 朔夜は頬が上気し、余裕のない表情になっていた。


 初めて見るその顔に、体にしびれが走る。
 なぜだか、無性(むしょう)に体が熱っぽい。


 朔夜「――……嫌だったら、(なぐ)ってでも止めて。……じゃないと、もう止まれる気がしない」


 ささやかれた朔夜の声は低く、そして甘く、透夏の気持ちを()き立てるのに十分だった。
 呼応(こおう)するように鼓動(こどう)が早くなっていく。


 ドキドキして苦しいのに、逃げ出したいほど恥ずかしいのに、それでも朔夜の視線から逃げることができない。
 体が自分のものではないようだ。


 朔夜の下で動かないでいると、彼がふいに唇を()めたのに気がついた。




 透夏「……っ」


 その様が、彼は捕食者(ほしょくしゃ)だと示しているようで。
 そして捕食される相手は――。と想像して余計に熱くなっていく。


 朔夜「……触れるぞ」
 透夏「っん、ぁ」


 首筋に降りてきた唇。服を乱していく指先。
 そのすべてを受け入れよう。


 そう決めた。


 止めないでいると朔夜は不安そうに上目づかいで見つめてきた。


 朔夜「……いいの?」


 (かす)れた声はもう止められないと分かっているものなのに、それでも透夏が嫌がるなら、と掛けられたものだった。


 透夏(……私の、ために)


 自分も余裕(よゆう)があるわけじゃないのに、こんなときでも透夏を優先してくれる朔夜に愛しさが(つの)っていく。
 そして――ゆっくりと頷いた。


 透夏「――いいよ」
 朔夜「っ」


 朔夜の顔が苦し気に、けれど幸せそうに(ゆが)んだのが見えた。