○朔夜(さくや)の家の玄関(げんかん)
 あの遊園地の日からときは流れ、期末テストを終えて夏休みに入っていた。
 透夏(とうか)は大荷物で朔夜の家を訪れた。


 透夏「おじゃまします!」
 朔夜「ん、上がって」


 相変わらずあまり物がない部屋を見回す透夏は、すぐにキッチンへと向かった。
 大きな荷物を開けると、中から調理器具をたくさん出していく。


 朔夜はそれを眺めつつ、困ったように笑っていた。


 朔夜「まさか夏休みに入って一番初めにオレの家に来たがるとは思ってなかったな」
 透夏「だってケーキを作る約束をしたじゃない」

 朔夜「それはそうなんだけどさ」


 透夏はあの日した約束を果たそうとやってきたのだ。
 張り切って器具をそろえていく。


 透夏(とにかく喜ぶ顔が見たくて、気合入れちゃった)


 父親が使っていた器具を持ち出し、材料は同じ業者(ぎょうしゃ)で揃えたので準備万端(ばんたん)だった。

 とそこに朔夜が顔を覗かせる。


 透夏(……そうだ!)


 透夏「ね、朔夜くんも一緒に作らない?」
 朔夜「え? いいの?」

 透夏「もちろん! 一緒に作った方が楽しいし! ……嫌だった?」


 一人で盛り上がっているかと心配になった透夏は、上目遣いで朔夜の様子を伺う。


 朔夜「いや、大歓迎だ」
 透夏「よかった!」

 朔夜「何作るの?」
 透夏「いろいろと悩んだんだけどね、ショートケーキにしようかなって。一番作り慣れているし!」


 ショートケーキは透夏が初めてうまく作れたスイーツだった。
 アルバムでうまく作れずに泣いているところを見られてしまったので、今はもう作れるということを示したかった。


 透夏「レシピはお父さんのものだから、朔夜くんが好きな味になるはずだよ!」
 朔夜「それは嬉しいけど……オレが見てもいいのか?」

 透夏「本来は門外不出(もんがいふしゅつ)だけどね。朔夜くんならいいよ」
 朔夜「そっか。それは嬉しいな」


 透夏「ふふ。よし、じゃあ作ろうか!」