朔夜は透夏に近づくとシュンとうなだれた。


 朔夜「悪かった。言っておくべきだったか……」
 透夏「本当に教えてほしかったよ……」

 朔夜「ごめん」
 透夏「……いいよ、もう。聞かなかった私も悪いし……」

 朔夜「ごめんなさい」


 大きな体の朔夜がなんだか叱られて落ち込む小型犬のように見えた透夏、気持ちを何とか切りかえる。


 透夏「……でもそうだなぁ。私、本当になにも用意できていないや……。どうしよう……」
 朔夜「それなら心配いらない。オレは透夏が傍にいてくれるだけで十分だから」

 透夏「でも……。本当にほしいものないの?」
 朔夜「んー」


 悩むそぶりを見せた朔夜は、しばらくして何かをひらめいた。

 朔夜「欲しいモノ、あるわ」
 透夏「! なに?」


 朔夜はゆっくりと透夏の耳元に口を近づけた。


 朔夜「オレは、あんたがほしい。……なんてな」


 すぐに体を離すと意地悪(いじわる)な笑みを浮かべていて、からかわれたのだと気がつく。


 透夏「~~~~もうっ!!」
 朔夜「ははは。あ、いて」


 透夏は照れ隠しとからかわれたことに対する抗議(こうぎ)で朔夜をポコポコと叩く。
 が腕を捉えられてしまい、目をあわせられる。


 朔夜「まあ冗談はさておき……。オレ、透夏の作ったケーキが食べたい。もしよかったら、叶えてくれないか?」
 透夏「……そんなことでいいの?」

 朔夜「それがいいんだ」


 朔夜のようなお金持ちなら透夏のケーキと言わず、好きなものをすきなだけ食べられるだろう。
 それでも透夏の作ったケーキが良い、と言われて喜ばないわけがない。


 透夏「分かった! 約束ね!」


 透夏はあっという間に笑顔になったのだった。