朔夜「まずあいつとは、透夏が気にしているような関係じゃないってことを断っておく。許嫁(いいなずけ)と言えばそうなんだけど、あれはカモフラージュ用の建前(たてまえ)なんだ」
 透夏「……カモフラージュ?」

 朔夜「そう。オレもあいつも、社長の子だからな。フリーでいると、いろんな奴から縁談(えんだん)を持ちかけられるんだよ。それを避けるために、家同士で関わりのあるあいつと契約関係にあった」


 雪は朔夜の父親の友人の子で、事業でも共同開発をするほど結びつきが強い家の子(朔夜が昔預けられていた家)なのだそうだ。


 透夏「……つまり、婚約者ではあるけど、気持ちはないってこと?」
 朔夜「そういうこと」

 透夏「天宮くんはそうだとしても、あの子は……? 天宮くんのことが好きなんじゃ……」


 透夏、雪が朔夜の腕に抱き着いていたのを思いだす。


 透夏(あの反応(はんのう)……。あの子は……)


 透夏から見たら、仲睦(なかむつ)まじい恋人そのものだった。
 自分だってまだ腕を組んだことなんてないのに……。と顔が(くも)る。



 朔夜「それはない」
 透夏「どうして、そう言い切れるの?」

 朔夜「あいつはな――」



 ――ピンポーン


 朔夜が口を開こうとするとチャイムが来客を知らせた。
 ちょうどリビングにいた二人の目には、来客の顔が映し出されている。


 透夏「……! あの子」


 映し出されていたのは、カモフラージュ相手だという雪だった。