○学校近くの小さな公園(夕方・人の姿はない)
 顔面蒼白(そうはく)のままベンチに座らされた透夏にペットボトルが差し出される。


 彰「これ、よかったら」
 透夏「ありがとう」


 変に喉が乾いていたのでありがたく受け取り、一口飲む。
 水が喉を通っていく感覚と共に、先ほどの意味が飲み込めた。


 透夏「……」
 彰「……悪い。見るつもりはなかったんだが、俺もちょうど帰る時間で。聞いちまった」


 気まずげに頬を掻く彰に、首を横に振る。


 透夏「ううん。真村君は悪くないから、気にしないで」
 彰「そうか。……それにしても、許嫁なんていたんだな。水藤は知ってたのか?」

 透夏「……ううん。初耳」
 彰「はあ!?」


 彰はぎょっとして叫ぶ。


 彰「じゃあ許嫁がいるにも関わらず年下の女に手を出していたってことか!? クズじゃねーか!」
 透夏「……そう、なのかな」

 彰「あっ……悪ぃ」


 自分の失言(しつげん)に気がついた彰は口を手でふさぐ。


 透夏「ううん。怒ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
 彰「……それなら、いいんだけど」

 透夏「でもね。……正直、何かの間違いじゃないかなって思うんだよね」
 彰「間違い?」

 透夏「うん。ほら、家の事情(じじょう)とかあるだろうし……」
 彰「お前なぁ……。お人よしも大概(たいがい)にしておかねぇと、いつか危ない目に遭うぞ」


 必死に自分を言い聞かせようとしている透夏だったが、彰は見抜いていた。


 彰「家の事情があったとしても、許嫁の存在を隠していたんだぞ? 後ろめたい気持ちがあったってことだろ」
 透夏「それは……」

 彰「彼女にすら言ってねぇってのがあり得ない。水藤に本気なら、付き合う前にちゃんというだろ。つか、付き合う前にどうにかするのが礼儀(れいぎ)ってもんじゃねぇのか? それをしねぇってんなら遊びの付き合いっつーことになるじゃねぇか」
 透夏「……遊び」


 彰の言葉が重くのしかかる。


 透夏(……でも確かに、なんで言ってくれなかったんだろう)


 彰「って、こんなことお前にいうべきじゃないよな。頭に血が上ってて」
 透夏「ううん。真村君のいうことももっともだし。……むしろごめんね?」

 彰「何が?」
 透夏「変なところ見せちゃって。気を遣わせちゃってるし」

 彰「水藤が気にすることじゃねえって。言っとくけど、俺に気を遣う必要はねえからな? 今は自分の心配をしろよ」
 透夏「……真村君は本当に優しいよね。ありがとう。でも私は大丈夫だから」

 彰「……」


 透夏の言葉に一度ピクリと震える彰。
 少し迷うそぶりを見せると、ゆっくりと透夏の前に立つ。


 彰「……別に、友達だから優しくしているわけじゃない」
 透夏「? 真村君?」

 彰「なあ水藤。……俺じゃ、ダメか?」
 透夏「……え?」