○前回の続き
 朔夜(さくや)許嫁(いいなずけ)を名乗る美少女が突然やってきて、凍り付く校門前。


 透夏(とうか)「……い、いいなず、け?」
 (ゆき)「うん、そうよ! ま、言っても親が決めた相手なんだけど」


 雪と名乗った美少女は意味深(いみしん)な笑みを浮かべる。


 雪「そう言う訳だから悪いんだけど、聞いてほしいことがあるから朔夜は借りていくねー!」
 朔夜「ちょ、まて雪!」

 雪「さ、早く早く~!」
 朔夜「だから聞けって! ぐっ、力強いな!」


 雪は興奮(こうふん)状態(じょうたい)で朔夜の話すら聞かず、近くに止めていた車に押しこんで、あっという間に朔夜を(さら)っていってしまった。


 透夏「……ええ?」


 残された透夏はどうすることもできずに、ただ茫然(ぼうぜん)としている。


 透夏(許嫁って、あれだよね? 将来を誓いあっている相手ってやつ……)


 そんな存在が朔夜にいた事実を受け入れきれない透夏、しばらくその場を動けない。


 透夏(それじゃあ、私って……?)


 もしかしたら遊ばれていたかもしれない、と嫌な方向に意識が向かってしまう。


 (しょう)「……あー。大丈夫か、水藤」
 透夏「ぁ。真村(まむら)くん……」

 彰「大丈夫……じゃなさそうだな」


 偶然(ぐうぜん)通りかかった彰に声を掛けられる。
 彰はガシガシと頭を掻くと、透夏の腕を引く。


 彰「あんなの目撃したらそうなるだろうけど。……とりあえず、場所を変えようぜ。ここじゃあ視線がありすぎる」
 透夏「あ……」


 よく見れば、たくさんの人が興味深そうに透夏を見ていた。

 あんな昼ドラのようなできごとがあれば、そりゃあ好奇(こうき)の目を向けられるのは仕方がない。
 彰はそれを(さえぎ)るように体で透夏を隠しながらその場を後にした。