○学校・屋上(昼休憩)
 透夏(とうか)の家でのできごとから一週間後。
 一枚の紙とにらめっこをする透夏。その表情は難しそうに曇っている。


 透夏「ううん……進路(しんろ)かぁ」


 渡された紙は、進路希望に関わる資料だった。
 うんうん(うな)っていると、屋上に朔夜(さくや)がやってくる。


 朔夜「なにを唸ってるんだ?」
 透夏「あ、天宮(あまみや)くん。お疲れ様。午前の授業でね、まだ早いけど進路の話が出てね」


 朔夜は資料を見ると、あれ? という顔になる。


 朔夜「あんた、パティシエになりたいとか言ってなかったか?」
 透夏「うん、そうなんだけど……。卒業までに専門にいくお金が貯められるかもわからないからさ。どうしようかなって。……天宮くんは進路とか決まっているの?」

 朔夜「……一応な。家の事業を継ぎたいと思ってる」
 透夏「家のっていうと、天宮グループの社長ってこと?」

 朔夜「まあ、そうなるな」
 透夏「へえー! すごいね! 高校卒業したらすぐに職場経験を積むの?」

 朔夜「いや。まずは大学で経営の心得を学ぶ必要があるな。親父が決めた大学を卒業しないと、経営陣には入れないと言われている」
 透夏「へえ……。スケールが違いすぎて……。大学はどこにいくの?」

 朔夜「……パリの大学」
 透夏「パリ!? ってことはまたフランスに戻るの?」


 驚愕(きょうがく)の表情で朔夜を凝視(ぎょうし)


 朔夜「そ。お菓子業界だと、本場の空気と経験が重要になってくるからな」
 透夏「……そっかぁ~」


 なぜか少し寂しい気持ちが湧いてくるが、原因が分からず首を(かし)げる。


 朔夜「なに。寂しいの?」


 察した朔夜がにやにやとからかってくる。


 透夏「そんなわけないでしょ。私たちは契約で交際しているわけだし」
 朔夜「なんだ。つまんねぇの」


 一瞬だけ残念そうな顔になる朔夜。


 朔夜「まあオレのことはいいんだよ。今はあんた自身のことだろ?」
 透夏「そうだった! まあ私はいけたら専門にいくし、いけなくても就職先を洋菓子店とかで見つけて働きながら技術を身に着けるかかなぁ」

 朔夜「行きたい専門は決まってるの?」
 透夏「一応ね。華桜(かおう)製菓専門学校ってところ」

 朔夜「一応?」


 (めずら)しく言いよどむ透夏に首を傾げる。


 透夏「うん。ホームページ見ていいなって思ったんだけど、まだ見にいったことなくて。まだ行けるかどうか分からないし……」
 朔夜「ふーん? でも一回現場を見てみるのは大事だと思うぜ?」

 透夏「うーん。でもなぁ」
 朔夜「迷ってんの?」

 透夏「うん。だって行けるかどうかも分からないのに、迷惑にならないかなって……」
 朔夜「でも行ってみたいんだろ? できない理由とか、相手の迷惑にならないか考えるより先に、自分がやってみたいと思ったんならやってみるべきだと思うけどな」


 踏ん切りがつかない様子の透夏を見て、スマホをいじる朔夜。
 ページは華桜製菓学校のホームページ。


 朔夜「あっ、ほら。来週の土日、ちょうどオープンキャンパスやるっぽいぞ。申し込んでおくな」


 画面を透夏に見せる。
 【申し込み二名様 ご予約承りました】の画面。


 透夏「えっ!? ちょ、そんな勝手に!? って、二名様!?」
 朔夜「ああ、オレもいく」

 透夏「な、なんで!?」
 朔夜「なんでって……。まあオレも日本の製菓学校に興味あるしな。もしかして、予定あったか?」

 透夏「ないけど……」
 朔夜「じゃあ決定な。今週の土曜、朝十時集合で」

 透夏「ええ……。もう、勝手なんだから」


 強引にオープンキャンパスに行くことが決まってしまった。


 透夏(天宮くんといると、なんだか話がどんどん進んじゃうのよね……。うまく乗せられている気がするなぁ。……でも)


 透夏「……ふふっ」


 突然のことに驚きつつも、なんだかんだ言って楽しみにしている透夏だった。