「あれ、日向じゃん」



私の声は掻き消され、視線を移すと前から歩いてきた高校生らしき3人組が声をかけてきた。


「知り合い…?」

「…あぁ、同級の友達」


そう言いつつも3人と彼はなんだかタイプが違う。それに、日向くんの表情も明るいようには見えない。


「っておいおい!俺らの誘い断って自分は彼女とデートかよ!」

「いや…」


「カノジョちゃん可愛いね!俺らとも遊ばない?」

「え、えっと…」


言うなれば不良って感じの雰囲気。
今までこう言う人たちと関わることはなかったから正直、怖い…


「な?いいだろ?」

「いつも優しい日向なら許してくれるよな?」

「…」



あまりの圧に今ここで断るなんて安易なことじゃない。それに嬉しくはなさそうだけど、この人たちは日向くんの友達、なんだよね…?

彼の心情も取ると、このまま頷いてみんなで回る方がよっぽどいい。


なら頷く…?でも、だとしたら私はどうすれば…?
とにかく、今は彼の意思を尊重したい。


次の返事を待つように全員の視線が彼を向いて…
少しの沈黙が流れた。





「なぁなぁ、カノジョちゃんあっちに美味しいイチゴ飴があるんだ」


そんな中、1人がこちらに手を伸ばしてきた。その手をかわすように、一歩引き下がるけれどほとんど距離は変わらず向こうからすれば手の届く距離。


…嫌、だ。


相手の癪に障るようなことはしたくない。だけど何もせず相手の思うままにもなりたくない。
…でもそうなれば、もし彼が頷いた時私は、、





「…悪い、今日無理」


「…!」


もう一度、後ろに下がろうとしたその瞬間
日向くんは伸びてきた1人の手首を掴んだ。
そして、安心させるように私の方を向いて微笑み、また5人に対して堂々とした顔つきで向き直る。


「別にいいじゃ…」


「よくない」


「俺今マジで譲りたくない」


「…」



「断ってる奴がこんなの言うのもあれだけど、俺は今心から楽しいって思える相手を見つけたんだ」

「だからごめん。今日だけは許して欲しい」





「日向…」


彼の真剣さが伝わったのか、1人は伸ばした手離し、もう1人と顔を見合わせる。あとの1人は…




「おら、日向」


「…?」


彼に近づき何かを耳打ちした。
もちろん聞こえていない私は日向くんの反応から考察することしかできない。…とは言え、当の本人も、よくわかっていないのか首を傾げて聞き返そうとした。


その瞬間…





「…なぁんて言われて、あっさり逃すと思ったか!?俺らと夏祭りしようぜ!!!」


と大声を上げた不良たちに2人で驚愕した。


「…っ!あ、彩!逃げるぞ!」


「えっ!?」



引かれたその手を頼りに人混みを掻き分けて走る。ペースを合わせてくれているのか、下駄でも追いつけるぐらいのスピード。
これじゃ追いつかれるんじゃ…と振り返っても不良たちの姿は見えない。


…なんか、楽しい


呑気にそんなことを考えながら前を行く彼に視線を戻す。繋がれたその手の力強さに、暗い気持ちも無くなっていて、思い返してみれば、さっきも心からの恐怖は感じなかった気がする。




…譲りたくない。咄嗟に作られた言葉とは言え、あの場で断ってくれたのは嬉しかったなぁ。


それも含めて、彼を信じていたのかもしれない。まだ出会って間もない、彼のことを。