「……あー、もしかして今。お取り込み中…だったかな」



「え、」



知っている声が夢と現実の狭間で反響する。


空耳…?それにしては鮮明で、聞き覚えのないセリフだった。


「もし、"フリー"なら。お話しようかと思ったんだけど、今じゃ流石に失礼か」

 
聞き馴染みのある声がだんだんと大きくなってくる。


まさか…


足音が近づいて、恐る恐る振り返った視界に、
落としたはずの花飾りを手にした声の主が目に映った。


「ふっ、このシチュエーションだけ見ると結婚式みたいだな」



大好きな笑い声の彼が、すぐ側に居る。
夢じゃない、本当に?本当に…!

彼がここいいる…!



「…っ日向くん!!」



心の底から胸いっぱい喜びが込み上げて、衝動が抑えられなくなった私は勢いよく彼の胸へと飛び込んでしまった。


「おわっ!…っはは!危うくまた同じ石段で転びそうだったぞ。もし転んだら、また絆創膏貼ってくれるのか?」


そんな私を、彼は笑って受け止めてくれる。夢のような、現実。彼は本当にここにいる。その幸せを噛み締めているうちに、つうっと一筋の涙が頬を流れていた。


「花火で泣かなかったのに俺に泣いてくれるなんて、俺は幸せ者だな」


日向くんは私の右手に花飾りを握らせ、愛しいものを見るような瞳で目元の涙を拭ってくれた


「あのね、日向くん。昨日あの後、私わたし」


話したいことはたくさんあるのに嬉しくて、言わなきゃいけないことがあるのに涙が溢れて。
上手く言葉を繋がらないまま、口にした文章は支離滅裂。


「ちゃんと聞くから落ち着けって。それよりも、今は他に言うことあるんじゃないか?」


そんな私を宥(なだ)めるように頭を撫でた後、イタズラに笑う彼はは驚いた私の視線を絡めて、離そうとしない。

彼が指してる言葉なんて、私が1番わかってる。
だけど、いざ本人に伝えるとなるとそう簡単に言えるわけがない。



… それでも伝えたい。



「…っ、日向くん…」



今頃気づいたあまりの至近距離が恥ずかしくて離れようと試みたが彼は逃してくれなかった。

頬が熱くて、心臓はうるさくて、顔ごと逸らしてしまいたかったけれどにそれじゃダメだと彼の瞳をじっと見つめる。


「なに、彩」











「好きだよ」










溢れんばかりの愛を込めて。
あの瞬間、出会った奇跡を私は忘れたりしない。


「…夢じゃないよなこれ」


「今頃夢にしないで」


「本当に、これからも俺のそばにいてくれるのか…?」


「うん、そばに居る、そばに居させてほしい」


「…あぁ、俺も」


「俺も好きだよ、彩」



彼は顎を掬うようにして私の唇に口付ける。
何が起きたのか理解した時にはもう遅く、気づけば目の前の彼がリンゴ飴に負けないほど頬を赤く染めていた。


そんな彼がたまらなく愛おしい。




「…ふふっ、顔赤い」


「お互い様」


「夏だからかな?」


「きっとそうだ」