「あれ、彩ちゃん。お祭り未練かい?」
「まぁ、そんな感じです」
一夜の夢が明けて、次の日。
また夏は変わらず日常として訪れる。
最近見た景色と違うところと言えば掲示板から花火大会のポスターが消えていたこと。
それから…。
バスに揺られて20分。
のどかな田園風景のバックに、連なる山々と入道雲。
青い空に包まれた緑の景色は、相変わらず良い眺め。
「熱中症には気をつけてな」
「ありがとう!」
静かになった、祭り会場に足を踏み入れた私は
昨日の余韻を噛み締めながら、同じように道を辿った。
履き慣れたスニーカーで登る神社への道のりはあっという間で、本当に昨日の場所がここなのかと、疑ってしまうほど静かだ。
…結局、髪飾りは見つからなかったなぁ。
取りこぼした小さな夏。
お気に入りだったけど、この自由の代価だと思えば安いもの。
…
…だけど、私の夢は終わってしまった。
どうせならもっとちゃんとお別れしたかった。
『この手離したくない」』
『これからも一緒にいてほしいとか我儘すぎるかな』
薄れつつある手の感触と、霞まない眩しい君の笑顔。
『彩…』
耳に残る彼の声が、何度だって私を呼んでくれる。
…だけどもう、彼に会うことはない。
「……好き」
小さく零れた忘れ物は、眩しい青空に咲く花火のように形も見せず消えていく。
やっと言えた。
たどり着いた答えを一晩寝かせて考えてみたが、やっぱり、この感情につく名前は"恋"だった。
私はひと時の夢に、彼に恋をした。
この気持ちごとこの場所に置いて行けるなら本望だ。
「綺麗な、花火だった」
見上げた空を飛行機が飛んで、陽の照る地面に花が咲く。
一夜の夢は完全に幕を閉じた。
また来年も、この花火大会を観にこよう。
その時隣にいる人が誰であれ、きっと今年の夏を超える花火はない。そう、思ってしまうほど、今年は美しい夢だった。
もし、願いが叶うのならもう一度 ___
「あの夢で、あなたに会いたい」