カランカランッ


メイン通りと比べれば、比較的穏やかな境内。お参りを終えて、ついでに先ほど視界に映った"恋みくじ"とやらを引いてみる。



「…吉、"伝えたい言葉は迷わず伝えよ"」



結果はまぁまぁと言ったところだ、ご助言もありがたく受け取っておこう。

むしろ、これぐらいが1番ちょうど良いんだと思う。そう言い聞かせて近くの樹に結ぶ。



…そろそろお祭りの醍醐味、屋台を回ろうか。そう意気込んで神社の鳥居を潜ろうとした時、ふと違和感を覚えた。


その違和感を解消すべく、側頭部の髪飾りに手を伸ばすがその手は空を切る。


…あれ


反対側、後頭部、頭全体に触れてみるが髪飾りの感触がない。もしかしてと辺りを見渡すけれど、髪飾りらしきものも見当たらない。


うそ…、落とした…?


まだ祭りに参加したとも言えない滞在時間。
人が多いから、何か無くしても仕方ないとは思っていたけれど、まさかこんなに早く落としてしまうなんて…


あまりにも早すぎる喪失。
バスに降りた時は確実にあったんだ、でもこの付近にないってことはあの人混みの中…


屋台の並ぶ方を見た瞬間、希望が薄れて行くのを感じた。あの中で落としたとすれば今頃どこかに蹴飛ばされているか、踏まれているか…。
見つけたとしても、土で汚れているだろう


「…仕方ない、か」


なんとか振り切って鳥居の下を潜る。

屋台のある方へと歩く足取りは心なしか重く、
暗くて見えにくい足元に気を取られて何度人にぶつかりそうになったことか。



「わっ…!?」


カッカッン



かと思えば、今度は周り意識が向いて下の段差に気づけなかったらしい。幸いにも転けはしなかったが、履き慣れない下駄で躓き足首を挫いてしまった。


「…」



大した痛みじゃない。少し止まっていれば治る。

そうして立ち止まっているうちに、懐かしい
思い出が蘇ってきた。