「…っ」
ふと、前を行く彼が足を止めた。
それに釣られて後を追っていた私足を止める。
「日向くん…?」
声をかけてみても応答はない。かといって、表情を窺うこともできずにただ立ち尽くす。
「どうしたの…?もしかして具合が悪いとか、、」
心配で顔を覗き込んだ。
すると突然、彼は勢いよく振り返り私の手を握った。
そしてそのまま何を思ったか、出口とは反対方向へと走り出し、手を引っ張って今来た道を戻って行く。
あまりに唐突な出来事で理解することもできず
彼の手を離さないようにするのが精一杯だった。
「ま、待って!」
彼にも余裕はないようで、声は届かず不慣れな下駄の私がついて行くには少し困難な勢いで駆け戻っていく。
「日向くん!お願い、止まってっ!」
「っ!!」
彼が私の声に反応したのは、数時間前初めて出会った石段の少し手前だった。
手を強く握りしめたまま振り向いた彼の表情には
何とも言えない、焦りと悲しみが滲んんでいて
「…ご、めん。俺、無茶させ、た」
と。
苦しげに顔を歪ませるその様子に、胸がキュッとなるのを感じる。
「日向くん…」
呼吸を整えながら彼の心情を読み取ろうと必死に
彼に合う感情を探す。対して日向くんは、口を開きかけては閉じてを繰り返し、お互いが何かを口にする前に前にその場へしゃがみ込んだ。
「…俺、さ。会場の入り口で時間潰してた時、バスから降りてきた彩に、一目惚れしたんだ」
「…え、」
「可愛くて、綺麗で、もし一緒に祭り花火を見られたらって」
「なんで今日いきなり祭りに行こうって思ったのか、わかった気がした」
聞き間違いじゃないか、なんて確かめる猶予も与えられない。うるさいほど脈打つ心臓今にでも飛び出してしまいそう。
彼の言葉に驚かされるのは何回目…?
素直でわかりやすい裏側に、予想だにしない事実を何重も隠してる。
「だからって叶うわけがない、そう思ってたのに何故か導かれるように上手く進んだ。
あの時転けたことすらも偶然じゃないって思ってるよ」
「出会う前から、好きだった。でも約束は約束だ、わかってる」
だけど。
音にならない声、今彼は自分で立てた約束に囚われれているのだと、はっきりわかる。
こんな時、私はなんで声をかければいいの。
私に、何ができるの。
「…なぁ、彩」
「どうしよう、俺」
____「この手離したくない」