「……見えなかったよ」
「…マジ?」
「うん、本当に。祭りを1番楽しんでるってぐらい」
初めて会った時から今までの印象をそのまま伝えた。私にとって彼は、絶えず光を放ち続けて、子供心を忘れない、祭りという存在をそのまま可視化させたような人だった。
そんな彼が祭りは好きじゃなかった、なんて本人の口から聞いても信じられない。
「ははっ、間違いない。今日は、俺が祭り1番の幸せ者だって思ってるよ」
「屋台の食べ物も制覇するぐらいいっぱい食べて。端から端まで距離あるこの通りを飽きずに歩いて。それにほら、お面まで付けたりしてさ」
「それって全部、隣に彩がいてくれたからなんだ」
『まもなく、打ち上げ花火が開始します。真夏の夜空に咲く華麗な花々をご堪能ください』
アナウンスが辺りに響く。
彼の言葉が心に染み渡る。
「彩、好きなら遠慮しなくていいんだぞ」
「自分が浮いてるかなんて考えるな。自分は逆らってるなんて後ろめたい気持ちでいるな」
「俺が保証しとくよ、今日彩が祭りに来たのは間違いじゃないって」
重ねられた手から伝わる体温が心地よかった。
高鳴る心臓、夢のようなデート。
いつの間にか私の見たい景色が、花火大会から彼と過ごす時間にすり替わっていた気がする。
…いや、その両方か、
私は欲張りだ。
『皆様、夏の夜空にご注目を…!』
皆の注目が夜空に向いて、始まった祭りのフィナーレに、わぁっと歓声が上がる。
あぁ、頬が熱い。夏の暑さとは違う、心臓ごと鷲掴みされているような感覚。
「綺麗だな…」
隣の彼が感嘆の声を漏らす。
視線を移し横顔を眺めていると私の視線に気付いた彼は俺じゃなくて花火見ろよなと笑う。
本当に、綺麗な花火だ。